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教えて!ドクター

所沢肛門病院 院長 栗原 浩幸 先生

プロフィール

所沢肛門病院 院長

日本外科学会専門医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本消化器内視鏡学会会員

所沢肛門病院
〒359-1141
埼玉県所沢市小手指町1-3-3

「痔」の症状には出血、脱出、痛みなどがある

「痔」といってもいろいろありますが、最も多いのは「痔核」、いわゆる「いぼ痔」です。他に「裂肛(きれ痔)」、「痔ろう」などがありますが、それぞれ症状が違います。「いぼ痔」は真っ赤な血が出たり脱出したりします。「きれ痔」は少しの出血や痛みです。「痔ろう」はしこりやかゆみを感じますが、化膿すると痛みや発熱することがあります。そのほか、肛門周囲がかゆい「肛門掻痒症(そうようしょう)」や、腸が出てくる「直腸脱」などで来院する患者さんもいます。

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「初診の患者さまによくある症状」

出血を痔だと思って放置しておくと、がんのステージは進行しやすい

肛門から出血した場合、市販の痔の薬を使っても止まらない時には、病院にかかって出血の原因をしっかり特定してもらった方が良いでしょう。大腸がんの可能性もありますから、自分で判断しない方が良いと思います。「痔には手遅れはないが、大腸がんには手遅れがある」ということです。これは当院で調べて論文にもしましたが、痔を患っている人で大腸がんが見つかった時は、ステージが進んでいる人が多い。痔だと思って放置してしまっているのです。ですから、40歳を過ぎたら一度内視鏡検査を受けてみることも大切です。日頃の検診を行っておけば、出血に関しては恐れることはありません。
痔ろうもがんになることがありますが、大部分をしめる単純な痔ろうではめったにありません。しかし、複雑な痔ろうはがんになることがあるので早めに手術することをお勧めします。

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「すぐに病院に来てほしい症状」

トイレにこもって便が出るまで頑張るのは禁物

普段から、行きたい時にトイレに行けない人、例えば運転手さんなどは、便秘になりやすく肛門に負担がかかるでしょうね。また排便の際、短時間は仕方ありませんが、長時間いきむのは良くありません。たまに30分トイレに入っているという方がいらっしゃいますが、ずっといきんでいるのはおしりに良いはずがありません。肛門がうっ血してしまうからです。トイレにこもって出るまで頑張るのではなく、便意を感じたらさっとトイレに行ってさっと出す。またトイレ以外でもそうですが、ずっと同じ姿勢でいないことが大切です。
あとは、やはり生活習慣が大事です。とらわれすぎるのはよくありませんが、決まった時間にしっかり出すリズムがあると、便秘にもなりにくく肛門への負担も減ります。毎朝、朝食をとったり朝一杯の水を飲むように心がけ、胃結腸反射というメカニズムを利用して排便することがコツです。

腸の病気が原因となる場合もある

「痔核(いぼ痔)」の場合は、便秘など排便習慣が原因となります。いつもいきんでいると、肛門の中にある支持組織が緩み、血管や結合組織のかたまりである、いわゆるクッションが大きくなって、出っ張るようになってきます。また、「裂肛(きれ痔)」は便秘の硬い便で切れることが多いのですが、下痢の人でも起こることがあります。「痔ろう」は下痢体質の人に起こりやすいです。下痢便が肛門と直腸の境目にある小さなくぼみに入って化膿させるからです。いずれにせよ肛門に負担がかかるのが主な原因です。
それ以外にも腸の病気自体が原因になることもあります。腸の炎症、例えばクローン病などがそれにあたり、裂肛や痔ろうなどを引き起こすことがあります。
またその人の体質も痔のなりやすさに関わっているように感じます。親が痔を経験していると、子供も痔になっているケースが結構あります。顔が似るように、おしりの形も似るのかもしれません。また体質以外にも、食生活や排便習慣なども似てくるということもあるのではないでしょうか。

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子供は便秘の悪循環、高齢者は「直腸脱」という病気も

子供が便秘をして硬い便を無理に出すと、肛門が切れてしまうことがあります(きれ痔)。おしりが痛いから便を我慢してしまい便が腸のなかに留まり、ますます硬くなってしまいます。するとなおさら便が出なくなってしまうという悪循環に陥ってしまいます。こうなると肛門だけでなくお腹も痛くなりますので注意が必要です。
高齢者の場合は、痔以外でも肛門のトラブルがいろいろあります。「直腸脱」という腸が出てきてしまう病気もそのひとつ。肛門括約筋の緩みなどが原因と言われていますが、5cm程度から、ひどい人で30cmも出てしまう人もいます。痛くないのですが、肛門から何か出ている、出血や粘液で下着が汚れる、腸が肛門から出るので歩きづらいなどと言って来院されます。また、直腸脱があると入所できない施設もあるので、入所するために治すという患者さんもいました。

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「年齢について」

改善が見られなければ、いろいろ提案してくれる病院を

日本大腸肛門病学会や日本臨床肛門病学会などに属する肛門専門医に診てもらえば良いでしょう。大学病院をはじめ大小さまざまな病院や診療所で「肛門科」を掲げていますが、○○科、○○科、○○科、肛門科、と最後に肛門科を標榜しているような病院や診療所の中には、薬だけ出し続けるといったところもあります。がんを見逃すと手遅れになる可能性もありますので、出血が続くなら腸の検査をしようとか、いつまでも痛いなら保存的療法では無理だなど、手術の必要性も含め、いろいろと提案してくれる病院が良いでしょう。治療方針を的確に示し、納得のいく説明をしてくれる病院が望ましいと思います。ずっと症状が改善されないなら病院を替えてみるという選択肢もあると思います。あとは肛門の手術件数の多いところを選ぶのも良いと思います。

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「病院の選び方」

肛門の中だけでなく、肛門表面からも情報を得ることが重要

初診の場合は、まず問診票を書いていただき、それを見ながら問診します。その後横向きに寝てもらって、肛門をしっかり診ます。肛門の中を診るのではなく、まずは肛門表面からの情報を得ないといけません。その上で指診を行い中の情報を得る。指診はただ指を入れるだけではなく、情報を得ようと考えながら触らなければ何もわかりません。最後に肛門鏡で確認します。肛門の診察は、ある程度の慣れが必要です。その意味でも実績の多い病院が良いでしょう。
当院の場合、初診の費用は約2000円、診察自体は5分程度です。ただし、出血している場合などは、その日のうちに内視鏡検査をすることがありますので、その場合は時間も費用も変わってきます。入院手術の場合、期間は約1週間で、費用は7万〜10万円です。

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「初診の流れと費用」

手で押し込める脱出でも、早期受診が有効

初めて出血した方や急にできた血栓性外痔核の患者さんなどは、まあまあ早く来院されますが、普段から排便のたびに出てきて指で押し込んでいるような人は、徐々に悪くなっていますので何十年も我慢している人もいます。最初はちょっと出て自然に収まっていたものでも、排便の時、スポーツの時、そして歩いている時にも脱出するようになります。脱出は薬ではよくなりませんので、我慢せずに早めに来院していただきたいですね。小さなものであれば外来でゴム輪結紮(けっさつ)療法や注射による硬化療法などが行われます。根治手術はいぼ痔を切り取るもので、しっかり行えば再発する可能性は低いです。

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「いぼ痔の治療について」

慢性裂肛の痛みは排便後の鈍痛。痛みが続くようであれば手術が必要

裂肛(きれ痔)は、肛門に入って1cm程度のところが切れるものです。排便時に痛いとか、便が硬い時に痛い程度の急性裂肛のケースであれば、痔疾用軟膏や便を軟らかくする薬などを処方します。
慢性化してくると、筋肉が炎症を起こして肛門狭窄(きょうさく・肛門が狭くなる)になりますので、そういう方は手術を行います。裂肛の痛みは、切れた痛みではありません。すごく硬い便が出ると、ズーンと鈍痛に襲われることがありますが、それが裂肛の痛みです。排便後にその鈍痛が何時間も続くようである患者さんも手術になることが多いです。その他には、痔核(いぼ痔)などが出たり入ったりすることが原因で切れる「随伴裂肛」というものがありますが、この場合はいぼ痔などをとらないと裂肛も治らないので手術が必要です。

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痔ろうの患者さんには、複雑化する前に手術を勧める

痔ろうの患者さんは、普段は膿んでいないのですが、下痢などの時に膿むケースが多いですね。痔ろうはやはり手術が必要です。おしりに膿を出す「瘻管(ろうかん)」という芯のような管が痔ろうなので、その管を取り除くのが手術です。これまでは、痔ろうの原因となる「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」の患者さんが100%痔ろうになると言われていたのですが、最近では2〜3割ぐらいの人はそのまま治るとも言われています。当院では、しこりがはっきりしているものに関しては早めに手術を勧めています。大半は初めて来院されたタイミングで手術を勧めるのですが、その時に手術をしなかった方でも、再発して2度目に来院された時は必ず手術をしています。痔ろうが再発を繰り返すうちに、膿が今までとは違う場所から出たりして複雑な形になることがあるからです。複雑な形になれば当然手術で切る部位も大きくなってしまいます。

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恥ずかしがらずに来てしまえば、周りはみんな仲間

当院の診察室は個室ではなく、後ろ側を医療従事者が通れるオープンな造りになっています。ですから、個室でドクターと患者さんの2人だけというシチュエーションはありません。こうした環境なので、女性の患者さんもかえって気を遣われていないように思います。横になっていただいての診察ですし、看護師もつきますので安心してご来院ください。生理を気にされる方もおられますが、問題なく診察できます。肛門の病院を受診するということは、「おしりを診てもらう」と覚悟を決めてこられている方が多いので、あまり恥ずかしがる方はおられません。病院の前まで来て帰ってしまわれる方もいるようですが、入ってしまえばみんな仲間。同じような疾患の方が来られているわけですから、患者さん同士の交流もあり、今まで隠していたことを仲良く語り合ったりされていますよ。

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「女性の患者さまの診察について」

形のある便をしっかり出して、肛門を広げることも大切

手術後は排便自体が痛いので、我慢した末に便秘になってしまうケースがあります。多少の痛みは我慢して、便秘で詰まってしまう前に排便することを心掛けてもらいます。適度な下剤の使用はやむを得ません。しかし下痢便の状態にしておくのは良くないです。そうなると肛門が固まってしまい、いろんなトラブルが起こります。肛門は、便である程度広がり、広がったところに皮がはってくるのが良いのですが、広がらないまま傷が癒合してしまうと、肛門が狭くなったり、痔ろうのように管ができてしまう可能性も出てきます。痛いからといって水みたいな便でごまかさず、形のある便を出して肛門を広げることが大切なのです。われわれも、術後の診察では肛門がくっついて固まっていないかチェックしますし、もしくっついていたらはがします。手術後当分の間は、排便時に裂肛(きれ痔)と同じような鈍痛がありますが、がんばってしっかり排便し、肛門を広げてあげることを意識してください。

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「治療後に気を付けてほしいこと」

痔核(いぼ痔)を便と勘違いし、ずっと便秘だと悩んでしまうケースも

便秘についてもさまざまなケースがあるので、症状をしっかり見極める必要があります。痔核を便だと思っていたために、ずっと残便があると勘違いし、自分は便秘だと思っている方もおられます。そういう方は、痔を取ってしまえば、当然便秘の感覚も無くなるわけです。一番気を付けなくてはならないことは、大腸がんによって詰まってしまい便秘になることです。便秘が続くときには大腸の検査が必要です。

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「便秘について」

排便は「出した感じがする」ことが大事

排便回数は、1日に2〜3回あっても大丈夫です。ただ、排便の際には「出した感じがする」ことが大事です。便が出ないからといって刺激性の下剤を飲んで下痢便を出すような排便管理は望ましいものではありません。下痢便だと出したつもりでも実際は腸内に残っていて残便感が生じるのです。よくバナナ状の便と言われますが、形があり、出してすっきりする便を出すことが大事です。最近は新しいタイプの下剤も開発されていますので、かかりつけ医の先生に相談してみるといいでしょう。

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「排便コントロールについて」

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